2026年10月5日から7日までの3日間で、大和証券、シチズン時計、損保ジャパンの3社が、問い合わせの管理に使っていた委託先のサーバへの不正アクセスで、顧客の情報が取られた可能性があると公表しました。委託先はどれもスカラコミュニケーションズで、同社は FAQシステム「i-ask」への不正アクセスを公表しています。
このうち大和証券と損保ジャパンの公表文には、同じ一文が入っています。「当社の委託先管理のあり方を検証し、管理強化策と実施時期を決定してまいります」。
大きな会社が委託先の管理を見直せば、その先で仕事を受けている会社や個人事業主にも、セキュリティのチェックシートや確認の依頼が回ってくる可能性があります。私自身も仕事を受ける側なので、届く前に一度、自分で答えてみました。
チェックシートは何を聞いてくるのか
チェックシートの形は会社ごとに違いますが、骨格は似ています。個人情報保護委員会が公開している「自己点検チェックリスト」は、次の8つに分かれています。
- 基本方針の策定
- 個人データの取扱いに係る規律の整備
- 組織的安全管理措置(体制、事故に対応する体制など)
- 人的安全管理措置(教育)
- 物理的安全管理措置(盗難の防止、持ち運び、廃棄など)
- 技術的安全管理措置(アクセス制御、認証、不正アクセスの防止など)
- 外的環境の把握
- 委託先の監督
委託元の会社には、個人情報保護法25条で、委託先を監督する義務があります。ガイドラインは、委託先の選定、委託契約の締結、委託先での取扱状況の把握の3つを、講じなければならない措置としています。チェックシートは、このうち「把握」のための道具の1つです。
自分で25問に答えてみたら、74点でした
最初の練習には、IPA(情報処理推進機構)の「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」が向いています。2026年3月に出た「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版に合わせた25問で、1問4点の100点満点です。
私は10月7日に、自分の仕事用のパソコンの設定を実際に確かめながら答えました。結果は74点で、IPA の判定では「ほぼ、出来ていますが、部分的に対策が不十分な点があるようです。」の帯でした。
点が落ちた問いを見て、気づいたことがあります。ディスクの暗号化、バックアップ、パスワードの管理、2段階認証のように、対策そのものは前からやっていたものが大半でした。落ちたのは、例えば次のような問いです。
- 画面ロックまでの時間が長すぎた(その場で直しました)
- OS の更新が少し溜まっていた
- 使っている外部サービスの一覧と、選んだ理由を書いたものがなかった
- 事故が起きたときに、誰に何時間以内に連絡するかを書いたものがなかった
- ルールはあるのに、人に見せられる形の文書になっていなかった
つまり、やっているのに、聞かれると答えられない状態でした。チェックシートで困るのは、対策がないことより、こちらの方が多いのではないかと思います。
最初に用意しておきたい3つの文書
IPA のガイドラインには、そのまま使える付録が無料で付いています。チェックシートが届く前に、次の3つを自分の言葉で埋めておくと、多くの設問に答えやすくなります。
1. 情報セキュリティ基本方針
誰が責任を持ち、どう取り組むかを書いた1枚です。付録2にサンプルがあります。サンプルは従業員のいる会社向けなので、個人事業主なら「全社」「従業員」の部分を自分に合わせて書き直します。私の分は、hebiwork.com/security に載せています。
2. 使っている機器とサービスの一覧
パソコン、スマートフォン、クラウドのサービスを並べて、どこに何の情報を置いているか、多要素認証をかけているかを書いておきます。付録6の資産管理台帳が使えます。クラウドの利用は、チェックシートでよく聞かれます。
3. 事故が起きたときの連絡手順
気づいてから、誰に、何時間以内に連絡するかを決めておきます。個人情報の漏えいで国への報告が必要になる場合、施行規則は速報を「速やかに」としていて、ガイドラインはその目安を「概ね3~5日以内」としています。委託先で起きた事故は、委託元の報告にも関わるので、委託元への連絡は早いほど喜ばれます。付録8に、中小企業向けの対応の手引きがあります。
答えるときの書き方
チェックシートへの答え方で、気をつけていることが3つあります。
- やっていることは、そのまま書く:「ディスクを暗号化しています」「自動でバックアップを取っています」
- 一部しかできていないことは、正直に書く:「一部実施」と書いて、いつまでに何をするかを添える。全部「実施」にすると、確認されたときに困ります
- 安全だとは書かない:「問題ありません」ではなく、「今回確認した範囲では、指摘はありませんでした」まで
記入例つきの Excel を置いています
IPA の25問に、記入例と書き方のコツ、3つの文書の一覧を足した Excel を作りました。回答を選ぶと点数も自動で出ます。登録なしでダウンロードできます。
設問は IPA「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」を利用しています。記入例と書き方のコツは、私が独自に追加したものです。
外に見せる証跡として、SECURITY ACTION があります
IPA の「SECURITY ACTION」は、中小企業や個人事業主が、自社の取り組みを自分で宣言する制度です。二つ星は、25問の自社診断を実施し、情報セキュリティ基本方針を外部に公開していることが条件です。2026年4月からは、申込みに GビズID が必要になりました。ロゴは無料で使えます。
私も10月7日に二つ星を宣言しました。ただし、これは自分で宣言する制度で、IPA が対策の状況を認定するものではありません。IPA も「認定を受けました」「取得しました」ではなく、「宣言しました」と表現するよう案内しています。チェックシートの答えの代わりにはならず、答えを用意する出発点、くらいに考えるのが正確です。
経済産業省と IPA は、委託先が「様々な委託元から様々な要求事項を求められ、過度な負担につながっている」ことなどを課題に挙げて、「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」を準備しています。2026年度末頃の開始を目指していて、10月の時点ではまだ始まっていません。この制度を引き合いに「評価を取得していないと商取引が規制される」「今すぐ評価を取得しないと入札から除外される」といった勧誘が報告されているとして、経済産業省と内閣官房国家サイバー統括室が注意を呼びかけています。制度は任意で、特定の製品を入れる必要もないとしています。
一連のニュースを見て、自分のところは大丈夫かと気になった方へ
委託先からの漏えいの公表が続いて、自分のところは大丈夫だろうかと気になった方もいると思います。取引先からチェックシートが届く前でも、今やっている対策を一緒に棚卸しして、足りない文書を整えるところからお手伝いしています。届いたチェックシートの回答づくり、SECURITY ACTION 二つ星の宣言、ホームページの外部公開状況の点検(侵入テストではありません)も含めて、セキュリティチェックシート回答サポート にまとめています。機器やソフトの販売はしていません。ご相談は無料です。
出典
- 大和証券「外部委託先への不正アクセスによるお客様情報の漏洩の可能性について」(2026年10月5日) https://ssl4.eir-parts.net/doc/8601/tdnet/2891437/00.pdf
- シチズン時計「委託先事業者に対する不正アクセスによるお客様情報の漏えいの可能性について」(2026年10月6日) https://www.citizen.co.jp/release/news/detail/2026/20261006.html
- 損害保険ジャパン「当社事業者向けサービスで使用する外部委託先システムへの不正アクセスによるお客さま情報漏えいの可能性について」(2026年10月7日) https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2026/20261007_1.pdf?la=ja-JP
- スカラコミュニケーションズ「FAQシステム『i-ask』への不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月6日) https://scala-com.jp/news/2026/10-1/
- 個人情報保護委員会「自己点検チェックリスト」 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/Self_assessment_checklist.pdf
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-4、3-5-3 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版・付録を含む) https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- IPA「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」(付録3) https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/ug65p90000019cbk-att/sme_guideline_v4.0_app_3.pdf
- IPA「SECURITY ACTION」よくあるご質問 https://www.ipa.go.jp/security/security-action/faq/
- IPA「SECURITY ACTION」申込方法 https://www.ipa.go.jp/security/security-action/entry/
- IPA「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」 https://www.ipa.go.jp/security/scs/index.html
- 経済産業省・内閣官房国家サイバー統括室「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)に関する注意喚起」(2026年4月27日) https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/20260427_scs.html