※この記事は2026年7月時点の集計です。対象期間は2025年7月1日〜2026年6月30日、対象は適時開示(TDnet)と有価証券報告書に限定しています。集計方法・判定基準・間違えた箇所まで本文に書いたので、気になる数字は追って確認できます。

「公開されている一次情報を、ただ数える」という調べ方があります。誰かの推計でもアンケートでもなく、企業が自分で出した文書を全部集めて、機械的に数える。派手ではありませんが、数え方さえ公開すれば、同じ手順を誰でもたどれるという強みがあります(判定に幅が出るところは、幅ごと見せます)。

そこで、自分の領域でやってみることにしました。上場している外食企業は、この1年でAIについて、開示文書に何を、どれだけ書いたのか。

先に結論を書きます。上場外食110社のうち、53%は1年間でAIという言葉を1度も出していません。 AIに言及した企業でも、その多くは「AIを活用してまいります」という計画の一文どまりでした。そして——AIで客を増やす話は、ほとんど誰も書いていません。

ただ、この記事でいちばん伝えたいのは数字そのものではありません。どう数えたか、そしてどこで間違えたかです。数える過程で、母集団の定義は4回壊れ、集計スクリプトにはバグが混ざり、分類は一度やり直しました。その全部を書きます。数字は、数え方を疑える状態になって初めて意味を持つからです。

何を数えたか

対象は、上場している外食企業110社です。東証の上場企業などから機械的に絞り込み、「店舗での飲食が売上の中心」「外食事業を独立したセグメントとして開示している」といった基準に当てはまる会社を拾いました。中食・弁当の専業、給食受託、食品メーカーは外しています。

数えたのは、この110社が2025年7月1日から2026年6月30日までに出した、適時開示(TDnet)と有価証券報告書です。決算短信、決算説明資料、各種のお知らせ、そして有価証券報告書。全部で約2,772本のPDF(店舗飲食が中心の中核90社ぶんで2,313本、多角化企業20社ぶんで459本)を走査し、「AI」「AI」「人工知能」といった語を含む記述を機械的に抜き出しました。結果、138本の文書から387件の言及が見つかりました。

ここで大事なのは、見ている範囲をはっきり区切ることです。この数字は「適時開示と有価証券報告書という、全上場企業が同じ形式で出す資料の中では」という条件つきです。各社が自社サイトやプレスリリースだけで出しているAI発表は含みません。範囲を広げるより、範囲を明示して閉じるほうが、あとで数字を使うときに強いと考えました。

母集団は、4回壊れた

「上場外食企業」という言葉は簡単そうに見えて、実際に線を引こうとすると何度も破綻しました。

そのたびに基準を書き直しました。最終的に、店舗飲食が中心の狭義90社と、外食セグメントを独立開示している多角化企業を加えた広義110社の2層で持つことにしました。

この「4回壊れた」という事実自体を、隠さず残すことにしました。きれいな基準が最初からあったわけではありません。数え直すたびに定義が変わったのなら、変わった経緯ごと見せるのが、追いかける側にとってフェアだからです。

数えた結果

AIという言葉すら、半分は出てこない

110社を、AIへの到達段階で並べるとこうなりました。

上場している大手ですら、AIを実際に自社へ導入できていると読めるのは、12社に1社でした。

「AIを活用してまいります」の壁

見つかった387件の言及を、深さで分けると、「言及のみ」が258件(67%)を占めました。「AIを活用してまいります」「AI・DXを推進します」——実装の記述がない、計画や方針の一文です。「全店に導入した」と明記された言及は、0件でした。

技術の中身についても同じでした。「予測」「画像認識」「生成AI」など、何のAIなのかが書かれていた言及より、中身の書かれていない言及のほうが多い(255件・66%)。「AI・ICT技術を活用し」で止まっていて、その先がない。

そして、AIという語が文書のどこに置かれていたかを見ると、65%が経営計画やIR資料の箇条書きの中でした。その文書の本題がAIだったもの——表題にAIを掲げた文書は、138本のうちわずか2本です。

AIで「客を増やす」話が、ほとんどない

いちばん引っかかったのはここです。387件を、AIの使い道でざっくり「コストを減らす側」と「売上を増やす側」に私が仕分けると、こうなりました(この2分けは私の整理で、凍結した分類軸そのものではありません)。

しかも売上側で最多の「予約・受付」も、中身はAI電話による人件費の削減です。いま上場外食業界は、開示文書を見るかぎり、AIをほぼ人手を減らす道具として書いています。「AIで客を増やす」側は、大手でもまだほとんど言葉を割いていません。

なお、AI検索やAIO(AIに機械的に認識される領域)への言及も0件でしたが、これはむしろ当然かもしれません。 そうした施策は、有価証券報告書や適時開示に書く性質のものではないからです。この窓からは「AIOに取り組む会社があるかどうか」は測れません。0件は「やっている会社が無い」証明ではなく、「この資料には出てこない」という意味です。ここは正直に、限界として置いておきます。

どこで間違えたか

ここからが、この記事の本題です。上の数字は最初から出ていたわけではありません。数える過程で3回、大きく間違えました。そのまま出していたら、全部それらしく見えたはずの間違いです。

「取れなかったもの」を「ゼロ」と数えていた

最初、いくつかの会社が「1年間AI発表ゼロ」と出ました。ところが調べ直すと、その会社たちは、開示一覧がうまく取得できていなかっただけでした。取れなかったものを、ゼロと数えていたのです。

「ゼロ」は、一次データを持たない数字です。「1件も無かった」と「取得に失敗した」は、集計表の上では同じ空欄に見えます。だから、ゼロを1件出すたびに「これは取得できた上でのゼロか」を確かめる作業を、あとから全社ぶん入れ直しました。

見分けの決め手は、失敗が末尾に連続していたことでした。会社ごとにバラバラに失敗するなら、その会社の問題です。でも走査の終盤で連続して失敗していたなら、それは相手のサイト側が一時的にアクセスを絞ったサインです。分布を見て、後者だと分かりました。

全角の「AI」が、信託銀行の住所を拾っていた

AIという語を抜き出す正規表現に、バグがありました。半角の「AI」には前後が英字でないという条件をつけていたのに、全角の「AI」にはその条件を付け忘れていたのです。

結果、有価証券報告書の大株主一覧に載る住所「赤坂インターシティAIR」(信託銀行の所在地。ほぼ全ての上場企業の有報に出てきます)を、AIとして誤検出していました。17件・14社ぶんが、まぼろしのAI言及として混ざっていたのです。

修正して、既知の正解12ケースで回帰テストを通しました。教訓は単純です。「語の境界を必須にする」ルールと「全角も対象にする」ルールが、それぞれ別々に書いてあったのに、その掛け算が実装されていなかった。パターンを1つ足したら、既存のガードを全パターンに配り直したか点検する。

「見出しのAI」を「実装したAI」と読み違えていた

分類の段階でも1件、取り違えがありました。ある外食チェーンを、機械的な分類では「AIを一部店舗に導入」と判定していました。ところが本文を読み直すと、導入店舗数が書かれていたのは自動案内システムとセルフレジで、本文はそれらをAIとは呼んでいません。AIという語は見出しにあり、実際にAIが使われていたのは「シフト作成のテスト運用」——実証段階でした。「導入」から「実証実験」へ、判定を下げました。

これは、機械の分類をそのまま信じてはいけないという実例です。だから最終的に、「自社導入まで到達した」とした会社は、1社ずつ本文に戻って確かめました。

分類は、どのくらい再現するのか

387件の言及は、対象領域・深さ・AIの種類・語の位置・事業帰属という切り口で分類しました。ただ「私がこう分類しました」だけでは、追いかける側は確かめようがありません。

そこで、同じ判定ルールを渡した別の作業者に、60件を独立に分類してもらい、どれだけ一致するかを測りました。偶然の一致を補正した一致度(κ係数)で見ると、切り口によって差が出ました。事業が外食か非外食かの判定は0.94とほぼ完全に一致した一方、「深さ」の判定は0.54と、切り口の中でいちばんブレました。

この差から、はっきり言えることがあります。粗い見出しは頑健で、細かいバケツは危うい。「言及どまりか、それ以上か」という二択にすると一致度は0.64まで上がり、「言及のみが約3分の2」という大づかみの向きは、作業者が変わっても変わりませんでした。一方で「生成AIが何件」といった細かい内訳は、作業者によって数倍ぶれます。だからこの記事では、細かい内訳は主張していません。

とくに「自社導入まで到達した8%」は、機械の判定がいちばん揺れる「深さ」に乗った数字です。だから、この9社だけは1社ずつ本文に戻って確かめました(前の章で書いた「見出しのAIを実装と読み違えた」1件は、この見直しで見つけたものです)。弱いと分かっている数字ほど、機械任せにしない。出せる精度の数字だけを出す、というのも、数え方の一部です。

それで、どう読むか

数字を並べたので、最後に読み方を書きます。ただし、煽らないように気をつけます。

「上場していないと危ない」という話ではありません。 これは適時開示と有価証券報告書という、限られた窓から見た景色です。自社サイトだけで丁寧にAI活用を発信している非上場店も、当然あるはずです。

言えるのは、上場して開示義務のある大手でさえ、開示文書の上では、AIを「客を増やす」方向にはほとんど言葉を割いていない、ということです。仕分けた使い道の87%はコスト削減側でした。逆に、AI検索やAIOへの言及はこの窓では0件——ただしこれは前に書いたとおり、「取り組む会社が無い」のではなく「開示文書には出てこない」というだけです。だからここを「空いている市場だ」と煽ることはしません。この調査で言えるのは、公式の開示という場で、外食大手はAIをまだ守り(コスト)の言葉で語っていて、攻め(集客)の言葉はほとんど持っていない、ということだけです。それがあなたの店にどう効くかは、開示文書ではなく、あなたの商圏の実際の検索のされ方を見ないと言えません。

そしてもう1つ。上のどの数字も、他社の「AIでこれだけ効果が出た」という数字を1つも借りていません。 全部、各社が自分で出した公開文書を数えただけです。効果の話は測っていません。測ったのは「何を、どれだけ、どう発表したか」だけです。そこは正直に区切っておきます。


数え方・判定基準・間違えた箇所まで書いたのは、確かめられない数字は、無いのと同じだと思うからです。この記事の数字が気になったら、対象は適時開示と有価証券報告書、期間は2025年7月から2026年6月、方法は全文からのAI語の機械抽出です。同じ手順を、同じ範囲で、誰でもたどり直せます。母集団の線引きや「深さ」の判定など、人が判断する部分では数字が多少動きますが、その揺れ方まで含めて公開しているので、どこがどう動くかも追えます。